和歌山地方裁判所 昭和29年(ヨ)232号 判決 1956年7月20日
申請人 岡本修三 外四名
被申請人 上野紡績株式会社
当事者参加人 大正紡績株式会社
主文
一、当裁判所が昭和二十九年十二月四日為した申請人岡本修三外四名と被申請人間の仮処分決定は之を取消す。
二、申請人岡本修三外四名の被申請人に対する本件仮処分命令申請は之を却下する。
三、第一項に限り仮に執行することが出来る。
四、別紙<省略>第一乃至第五物件目録記載の物件について当事者参加人に保証として金二百万円を供託させた上左の通り決定する。執行吏は当事者参加人の申出があつた場合には当事者参加人が右物件の現状を変更しないことを条件として当事者参加人に使用せしめて保管することが出来る。
五、別紙第一乃至第五記載物件よつ別紙第六記載を除く物件につき左の通り決定する。
1 前記物件について被申請人の占有を解いて之を当事者参加人の依頼する和歌山地方裁判所執行吏に之を保管させる。
2 執行吏はその保管している事実を公示するために適当な方法を執ること。
3 被申請人は右物件の占有の移転その他一切の処分をしてはならない。
六、当事者参加人の申請人等の為した仮処分執行の取消を求める申立は之を却下する。
事実
申請人訴訟代理人は昭和二十九年十二月四日付和歌山地方裁判所の為した申請人等と被申請人間の仮処分決定は之を認可す及び当事者参加人の申立を却下すとの判決を求め申請の理由として、
一、申請人岡本修三は昭和二十九年五月一日被申請人より別紙第一物件目録記載の物件を代金十九万二千円也で買受け其の所有権を取得し其の引渡を受け同日より昭和二十九年十一月十日迄賃料一ケ月金二千円也にて被申請人に賃貸し、被申請人は昭和二十九年十一月十日迄の間に申請人より右代金を申請人に支払した上買戻得る旨の特約をした。
二、申請人田村一郎は昭和二十九年四月二十日被申請人より別紙第二物件目録記載の物件を金三十万円で買受け其所有権を取得し其引渡を受け同日より昭和二十九年十一月十日迄右物件を月賃料金二千五百円の賃料で被申請人に賃貸し、被申請人は昭和二十九年十一月十日迄の間に申請人に右代金を以つて申請人より買戻し得る旨特約した。
三、申請人田村茂は昭和二十九年四月七日被申請人より別紙第三物件目録記載の物件を代金二十万円で買受け其所有権を取得し其引渡を受け同日より昭和二十九年十一月十日迄右物件を一ケ月賃料二千円也で賃貸し、被申請人は昭和二十九年十一月十日迄に申請人より右代金額で右物件を買戻し得る旨約定した。
四、申請人岡本徳長は昭和二十九年四月二十日被申請人より別紙第四物件目録記載の物件を金二十万円で買受け其所有権を取得し其引渡を受け同日より昭和二十九年十一月十日迄右物件を被申請人に一ケ月賃料二千円で賃貸し且被申請人は昭和二十九年十一月十日迄に申請人より右代金額で右物件を申請人より買戻し出来る旨約定した。
五、申請人上野富男は昭和二十九年四月二十日被申請人及び申請外上野実業株式会社より別紙第五物件目録記載の物件を代金四十五万円で買受け其の所有権を取得し其引渡を受け同日より昭和二十九年十一月十日迄右物件を被申請人及申請外に一ケ月金五千円の賃料で賃貸し且被申請人及申請外は右代金額を昭和二十九年十一月十日迄に支払した上申請人より買戻し得る旨約定した。
六、爾来被申請人は右物件全部を占有して使用して来たのであるが賃借期限である昭和二十九年十一月十日迄に右物件の買戻もしないし、又賃料を一回も支払せず各申請人は被申請人に対して右物件の引渡を請求しても被申請人は他の債権者との関係上引渡もせず之を第三者に売却して其の債務の弁済に充当し様とさえするに至つて居るので各申請人は被申請人に対して右各物件の引渡の本訴提起であるが今仮処分をしなければ勝訴の判決を受けても効力がないので本申請をした次第であります。
尚仮処分手続に於て第三者が当事者として参加して異議申立を為すことは出来ない、と陳述した。<疏明省略>
被申請人は、主文第一項同旨の判決並当事者参加人の申立却下の判決を求め申請人の主張事実は全て之を認めるが当事者参加人の主張事実は全部否認すると陳べた。(疏明省略)
当事者参加人は申請人に対し主文第一、二項、被申請人に対し第四項第五項同旨の判決を求め、参加の趣旨並理由として、申請人岡本修三は別紙第一、同田村一郎は別紙第二、同田村茂は別紙第三、同岡本徳長は別紙第四、同上野富男は、別紙第五各物件目録記載の機械が各申請人の所有なりと主張して被申請人に之が引渡を求めるものであるが、右各物件は全部当事者参加人の所有であり、従つて当事者参加人は民事訴訟法第七十一条により当事者双方を相手方として訴訟に参加し異議の申立をするものであると述べ、参加申出の原因について、
一、申請人等五名は被申請人を相手方として御庁に対し昭和二十九年十二月四日本件物件に対し仮処分の申請をなし昭和二九年(ヨ)第二三二号として受理せられ御庁は昭和二十九年十二月四日本件物件の被申請人の占有を解きこれを申請人の委任する執行吏に保管させる。被申請人は本件物件を譲渡その他一切の処分をしてはならない。旨の仮処分決定がなされ、これに基いて申請人等は被申請人に対し仮処分の執行をなした。
二、しかし本件物件は申請人等の所有でもなく、被申請人の所有でもなく昭和三十一年四月十五日まで事件外大洋物産株式会社の所有であつたが同日当事者参加人が買受けその所有者となつたものである、その具体的事実を左に記載する。
(一) 事件外大洋物産株式会社は昭和二十八年十二月二十日被申請人に対し本件物件を、
(1) 代金二千六百七十八万三千円也
(2) 支払方法
昭和二十九年一月から同年十月まで十回に分割して毎月末支払但昭和二十九年一月には二月分三月分と合せて三ケ月分支払う約束であつたが、実際は被申請人はこれが支払の手段として昭和二十九年一月十二日
(イ) 額面金二百五十万円
支払期日昭和二十九年三月三十一日
(ロ) 額面金二百五十万円
支払期日昭和二十九年四月三十日
の約束手形を振出し大洋物産に交付したが前記(イ)の約束手形金を支払つただけで(ロ)の約束手形金はもとよりそれ以外に一円も支払わなかつた。
(二) 大洋物産は強く請求の結果代金支払方法、機械所有権帰属等について概略話合が成立しこれを明確にするため被申請人は昭和二十九年五月七日大阪簡易裁判所に対し和解の申立をなし左記の通りの和解が成立し和解調書が作成せられた。
和解条項
(1) 事件外大洋物産株式会社は被申請人に対し本件物件を売渡し昭和二十九年五月末日限り被申請人の工場に搬入する。
(2) 被申請人は右物件の代金二千六百七十八万三千円の内、大洋物産に支払つた金七百万円、(前期(イ)(ロ)の手形並に和解の日交付した額面金二百万円、支払期日昭和二十九年七月七日の手形の交付を支払と見て)を差引いた金一千九百七十八万三千円を昭和二十九年五月末から一ケ月金二百四十七万円也完済に至るまで毎月末支払う。但し最後の月は金二百四十九万三千円とす。
(3) 被申請人は大洋物産に対し前項支払のため本和解成立と同時に被申請人振出に係る前項支払期日の約束手形を大洋物産に交付する。
(4) 物件の所有権は被申請人が大洋物産に代金を完済したとき移転するものとし、被申請人は善良なる管理者の注意を以つて其の用法に従い使用収益する。
(5) 被申請人が前記支払を一回でも遅滞したときは期限の利益を失い前記売買契約は当然に解除したものとし即時前記物件を大洋物産に引渡すこと。
(6) 被申請人は大洋物産に対し大洋物産が前項に基き前記物件引渡の際はその取引につき協力し且引取につき要する費用は被申請人において負担する。
(7) 申立費用は各自弁。
(三) 大洋物産は和解成立後も機械部品を納入しその価額は合計金三千二百十三万八千四百五十六円に達したが被申請人は和解条項所定の金を一文も支払わないだけでなく工場も未完成で稼動できない状態にあつたので大洋物産は本件物件の引渡執行を行うため昭和二十九年八月四日前記和解調書に執行文の付与を受け機械引渡の強制執行を行わんとした。
(四) ところが被申請人は「資本を出してくれる人が現れた、同人と共同経営の具体案を立てているから決り次第代金を決済するから本件機械の引揚を猶予せられたい」と懇願するので大洋物産としても本来の目的は売買であつて機械の引揚ではないので代金を決済するのならと考えその引揚を猶予したのである。
(五) ところが被申人は本件機械がその占有にあることを奇貨として大洋物産の所有であり二千五百万円以上の価格の本件機械を五群に分割し昭和二十九年十月二十五日と同月二十九日の両日に亘り
(1) 被申請人の親会社である上野実業株式会社の取締役である申請人岡本修三(同人は上野久男の従弟)
(2) 被申請人の取締役である申請人田村一郎(同人は上野久男の義弟)
(3) 上野久男の妻の兄である申請人田村茂
(4) 申請人岡本修三の実父であり上野久男の叔父である申請人岡本徳長
(5) 前記上野実業の監査役であり被申請人会社の代表取締役上野久男の実弟である申請人上野富男
等の五名に対し、合計僅かに一百三十四万二千円で売却したと仮装譲渡し、長い方で僅か十六日後、短い方は十二日後である何れも昭和二十九年十一月十日までに売渡金額と同額で買戻すことができる、右期日まで本件物件を賃貸する旨の売買並賃貸借契約公正証書を作成したのである。(疏甲一号証乃至第五号証)
(六) 申請人田村一郎、同田村茂、同岡本徳長、同岡本修三、同上野富男は申請人となり右公正証書に基き昭和二十九年十二月四日被申請人に対し御庁に処分禁止執行吏保管の仮処分命令を申請し御庁は昭和二九年(ヨ)第二三二号事件として処分禁止執行吏保管の仮処分決定をなしこの決定に基いて申請人等五名は昭和二十九年十二月四日仮処分の執行をした結果大洋物産の引渡強制執行は不可能になりました。
大洋物産は被申請人のこの悪辣な、古くから三百代言人の慣用する所謂「三者執行」に切歯扼腕しながらも本件機械の保管工場の所有者であつた三起建設株式会社に対し昭和二十九年五月から昭和三十一年三月まで金百四十七万二千二十五円の保管料を支払い機械の保全に尽して来ました。
(七) それに引きかえ申請人等は右仮処分の申請を為すに当り少くとも金二千五百万円に達する本件機械を僅かに一百三十四万二千円であると裁判官を欺き僅かに合計金三十八万円の保証金で仮処分の決定を受けただけでなく、仮処分の執行を完了するや昭和二十九年十二月十六日被申請人と合意の上この少額の保証金さえもこれを取戻してしまつたのであります。
(八) この公正証書の作成による本件機械の仮装譲渡、仮処分申請、仮処分執行、保証金取戻と言う一連の行為は、
(1) 譲渡価額が直価の約二十分の一であること。
(2) 公正証書作成の時が昭和二十九年十月であるのに売買の時を故らに同年四月と五月にしたこと。
(3) 譲渡物件の中には同年四月、五月には被申請人の占有にないものであるのに引渡を完了したとしていること。
(4) 極めて例外である仮処分執行継続中であるのに合意の上保証金を取戻したこと。
(5) 買戻期間が公正証書作成の日より長い方で十六日間、短い方では十二日間の短い期間であること。
(6) 仮処分申請と買戻期間最終日との間は二十四日間であること。
(7) 仮処分の執行と保証金取戻の合意との期間は僅かに十二日間であること。
(8) 申請人等五名は何れも被申請人会社に関係の極めて深い者であること。
(9) 仮処分後一年三月を経過するも申請人等五名は本訴を提起していないこと、
を観れば大洋物産からの強制執行を逋説を目的とするものである。
殊に
(1) 譲渡価額を直価の約二十分の一にしたこと。
(2) 申請人等五名は被申請人会社に極めて深い関係にあること。
(3) 裁判官を欺いて保証金を極めて少額にしたこと。
については動かすことも弁解の辞もない行為であります。
(九) 因つて大洋物産はこれが強制執行逋脱の行為を排除するために昭和二十九年十二月二十七日申請人等五名を被告として第三者執行異議の訴を起し昭和二九年(ワ)第四一四号として目下係属中であり、他方では昭和三十年一月八日被申請人会社の代表取締役上野久男を被告訴人として横領罪の告訴をしたが昨年末上野久男が誠意ある解決をすると誓うのと、検察官がもし上野久男が誠意ある解決をしないときには再告訴しなさいとの勧告により取下げました。
(十) ところが被申請人会社も代表取締役の上野久男も誠意ある解決をしないので前回告訴取下のときの約束に従い大洋物産は昭和三十一年三月二十三日再び上野久男を被告訴人として刑法第九十六条の二強制執行逋脱罪で告訴をし、現在和歌山地方検察庁検事伊原さんにおいて搜査中であります。
(十一) 当事者参加人は昭和三十一年四月十五日大洋物産より本件機械全部を買受けたので本件仮処分決定に対する当事者参加による異議の申立並本件仮処分執行に対する第三者異議の訴を起し被申請人に対しては本件物件の引渡を請求する訴を準備しました。
(十二) しかし被申請人は申請人等と共謀して強制執行逋脱のために三百代言人等の慣用した所謂「三者執行」を敢行したほどのシタタカ者であるから本件仮処分決定に対する当事者参加による異議申立事件並本件仮処分執行に対する第三者執行異議の訴の審理中本件仮処分執行を解放の上本件機械を他人の占有に移し或は譲渡その他の処分をした場合には或は前記異議の申立並第三者執行異議の訴の基礎がなくなり申立又は訴が棄却されることあり、或は異議の申立が許容せられ、又は第三者執行異議の訴が当事者参加人の勝訴になつてもその実効がなくなるので昭和三十一年四月二十一日御庁に対し当事者参加人が申請人となり被申請人を被申請人とし本件仮処分決定と抵触しない処分禁止執行吏保管の申請をなし同日同旨の仮処分決定を受け同日これが執行を完了しました。
(十三) 因つて本日茲に当事者参加による仮処分決定に対する異議の申立をしたのであります。
(十四) 本件物件については御庁が昭和三十一年四月二十一日当事者参加人のために処分禁止、執行吏保管の仮処分決定を発せられているが本件物件は昭和二十八年十二月より今日まで約二年数月の間設置したまま使用しないため機械は錆びかけこれが防止保管のためには梅雨毎に二回応急の手入を大洋物産の出捐でして来たがこれ以上使用しないときは機械全体の機能を甚しく害するものであり現在においても針布はほとんど役に立たない状況にあり、適当な使用が最良であるので当事者参加人に使用を許したまゝ保管させて頂くため申出の趣旨第三項を求めるものであります。
と陳べた。(疏明省略)
理由
先づ保全訴訟に於て、当事者参加による異議申立が出来るかどうかについては、昭和十三年四月二十日大審院昭和十二年(オ)第一三五八号仮差押異議事件の判例に於て傍論として補助参加について之を肯定して居る外には適確なる判例はなく、学説上も賛否諸説散見するところであるが、保全命令が発せられその執行が為されても異議の申立により何時にても判決手続に移行させることが出来るものであり即保全命令手続はその異議事件の確定がない間はその手続は繋属して居るものと見るべきであるから補助参加は勿論当事者参加も之を為し得るものと解すべきであつて、民事訴訟法第七百五十六条により準用せられた同法第七百四十八条により準用せられる同法第五百四十九条による第三者異議の訴による救済手段があるからと言つて、当事者参加による異議申立が許されないと言うことは出来ない。即第三者異議の訴によるときは立証はすべて証明の方法に依らなければならないに反し、異議申立手続に於ては立証は疏明の方法に依り為し得べく、その緊急性の要求に合し申立の必要ある場合を認め得べきであるからである。
そこで、先づ当事者参加人と申請人間の本件仮処分決定の当否について判断する。
申請人等に於ける被保全権利の存否について、
申請人等は本件仮処分決定当時疏明資料として、甲第一号証乃至第五号証を提出し、被申請人より別紙第一乃至第五記載物件(以下本件物件と称する)を各申請人が買戻約款付にて買受けたが被申請人に於て買戻期間を徒過したため完全なる所有権を取得したと主張するに対し、当事者参加人は自己の所有権を主張し、右申請人被申請人間の売買は仮装の虚偽の売買であつて無効である、仮に右売買が有効であるとしても時価二千五百万円に達する本件物件を僅々百三十四万円にて売買契約を為したのは民法第一条、第九十条に違反する無効の行為であると反駁するについて考察するに、
成立に争いのない甲第一号証乃至第五号証、丙第四号証の一乃至五、証人中村薫の供述により真正に成立したものと認める丙第六号証、証人金井忠義の供述により真正に成立したものと認める丙第十四号証、並証人中村薫、同金井忠義の各供述及び本件記録並弁論の全趣旨より判断すると、申請人等が被申請人会社と極めて密接な身分若くは経済関係を有すること、本件物件が時価の約二十分の一の価格で売買されていること、申請人等の被申請人に対する仮処分の執行が昭和二十九年十二月四日に行はれ、同月十六日に、被申請人同意の上保証の取消決定が為されていること、等の事実を認めることが出来、こういう事実から見ると、申請人等と被申請人間の本件物件に関する売買契約は仮装のものであると主張する当事者参加人の申立は一概に排斥することは出来ないのであるから、申請人等に被保全権利の存することの疏明は充分でないと見なければならない。依つて申請人等の本件仮処分の申請は却下すべく、昭和二十九年十二月四日当裁判所の為した仮処分決定は之を取消さなければならない。
次に、被申請人に対する当事者参加人の仮処分申請について判断する。
当事者参加人に於ける被保全権利の存否について、
証人竹内直助の供述により真正に成立したものと認める丙第一号証の一、二、証人下平克男の供述により真正に成立したものと認める丙第十二号証、証人亘理勝男の供述により真正に成立したものと認める丙第十一号証、証人中村薫の供述により真正に成立したものと認める丙第六号証及証人竹内直助、同下平克男、同亘理勝男、同中村薫、同山岸欽一の各供述を綜合すると、昭和二十九年二月頃訴外大洋物産株式会社と被申請人との間に本件物件の売買契約が締結せられたこと、同年五月頃両者の所有権の帰属し関して之を明瞭ならしめるため大阪簡易裁判所に於て両者間に起訴前の和解調書が作成されたこと、和解の内容は当事者参加人主張の通りであること、昭和三十一年四月十五日当時本件物件の所有権を保有する右訴外大洋物産株式会社と当事者参加人との間に本件物件について売買契約が締結せられたことを認めるに足る疏明充分である。之に対し被申請人より何等反対疏明資料の提出がない。
保全の必要について
証人大図義雄の供述により真正に成立したものと認める丙第九号証並検証の結果を綜合すると、本件物件中各紡績機械の重要部分に於ける錆付部分多く時日の経過と共に益々甚だしくなる事、之を回復修理に要する費用に莫大な額を要すること、及び当裁判所に顕著である当事者参加人を原告とし、申請人並被申請人を被告とする第三者異議の訴並本件物件引渡の訴が本案として繋属している事実を認めることが出来る、依つてその保全の必要あるものと認定し、尚当事者参加人が本件異議申立中申請人等に対し申請人等の為した仮処分の執行の取消を求める部分はその必要ないものと認めるから之を却下することにし、仮執行の宣言について民事訴訟法第五百四十八条第二項の規定に基き主文の通り判決する。
(裁判官 山田常雄)